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退職勧奨とは?~医師のための労務 退職シリーズ第1回~
医院経営を行う中で、人事に関する悩みはよくご相談いただきます。適切な対応をしないと思わぬトラブルに発展する恐れもあり、慎重に対応したいものです。職員に辞めてもらいたいと考えたとき、思い浮かぶ手段は何でしょうか。「解雇」が思い浮かぶことが多いのではないでしょうか。しかし、わが国で解雇は容易ではありません。そこで往々にして「退職勧奨」という手段が用いられます。
■ 退職勧奨とは
職員の退職事由を大きく分けたとき、次の3つに整理できます。第1に「解雇」、第2に「自主退職」、第3に「合意解約」です。解雇は個人開業医または医療法人(以下「個人開業医等」といいます。)がその一方的な意思表示によって労働契約を解約するもの、自主退職は職員がその一方的な意思表示によって労働契約を解約するもの、合意解約は両当事者の合意によって労働契約を解約するものです。
以上の退職事由のうち解雇は法律上厳しく制限されています。そこで、その代替的な手段として「退職勧奨」が用いられることが多いです。退職勧奨とは、職員による自発的な退職または合意解約を促す行為です。 以上のように解雇と退職勧奨は全くの別物です。
■ 退職勧奨を行うためには
退職勧奨は、基本的に職員の自由な意思を尊重する態様で行われる限り、個人開業医等はこれを自由に行うことができます。解雇のように労働基準法や労働契約法によって規律されているわけではありません。
また、退職勧奨はそれだけでは労働契約の解約という効果が発生しません。退職勧奨の結果、職員が退職の意思表示をしたとき、または合意解約の申込みをし、個人開業医等が当該申込みを承諾したときにはじめて労働契約の解約という効果が発生します。
■ 退職勧奨を行う際の注意点
退職勧奨を行う際の注意点は次の3点です。
第1は、職員の自由な意思形成を妨げ、その人格を攻撃するような退職勧奨を行ってはならないという点です。行ってはならない退職勧奨として、たとえば、職員が退職しない旨を表明しているにもかかわらず長時間・長期間にわたり行う退職勧奨や、職員の名誉感情を不当に害する屈辱的な言辞を用いて繰り返し執拗に行う退職勧奨が挙げられます。そのような退職勧奨は、自主退職または合意解約の効力を否定する原因となる上に、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求を招く恐れがあります。
第2は、就業場所や業務の変更(以下「配転」といいます。)などの人事上の措置は、退職勧奨を行う前に終わらせる必要があるという点です。職員が退職しない旨を表明した後に配転などの人事上の措置をとることは、退職誘導・報復という不当な動機・目的によるもの、即ち、権利濫用として違法・無効と判断される恐れがあります。
第3は、雇用保険上、退職勧奨での離職者は、解雇と同様に喪失原因「3」と評価されるという点です。前述したように「解雇」と「退職勧奨」は全くの別物ですが、雇用保険上は同じ評価です。喪失原因「3」の離職者を出してしまうと、特定の助成金に影響が及びます。たとえば、キャリアアップ助成金(正社員化コース。令和5年度)は、正社員化日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に喪失原因「3」の離職者を出した場合には、支給されません。
■ おわりに
退職勧奨は基本的に自由に行うことができるものですが、軽率に行うのは避けるべきです。労使紛争に発展する恐れや、助成金が不支給になる恐れがあるからです。そこで退職勧奨を行うときは、事前に弁護士などの専門家にご相談いただくのが望ましいといえます。そのような方に心当たりがなければ、顧問税理士に紹介を依頼してみるのもよいでしょう。