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普通解雇とは? ~医師のための労務 退職シリーズ第2回~


 個人開業医又は医療法人(「使用者」)が職員(「労働者」)の意思にかかわらず、その一方的な意思表示によって労働契約を解約するものを「解雇」といいます。解雇には大きく分けて「普通解雇」、「懲戒解雇」、「整理解雇」の3つがあります。
今回はこのうち普通解雇を解説します。

■ 普通解雇とは
 「普通解雇」とは、労働者の著しい能力不足や業務命令違反などに対して為される解雇です。懲戒処分の一種として為される「懲戒解雇」、使用者側の事情に起因して為される「整理解雇」とは区別されます。もっとも、普通解雇と整理解雇は、法律によって定義された言葉ではなく、両者を区別しないこともあります。

■ 普通解雇を行うためには
 解雇は労働者の生活に重大な打撃をもたらすことが多いため、わが国では様々な形で規制されています。その規制は大きく解雇手続規制と解雇理由規制に分けられ、普通解雇のほか、懲戒解雇と整理解雇にも適用されます。

①解雇手続規制
 解雇するには、原則として、少なくとも30日前に労働者に予告することが必要です(労働基準法20条1項)。この予告日数は平均賃金(「解雇予告手当」)を支払った日数分だけ短縮できます(同2項)。
 また、解雇には時期的制限があります。労働者が業務上の負傷や疾病による療養のために休業する期間とその後30日間、並びに産前産後休業の期間とその後30日間は、原則として解雇できません(労働基準法19条1項)。なお、業務上の負傷や疾病による療養のために(傷病)休職している労働者を休職期間満了により自然退職させることもこの時期的制限に触れると解されています。

②解雇理由規制
 大きく次の3つの制限があります。
 第1に、法令による制限です。差別的な理由や正当な労働者の行為を理由とした解雇などが、各種の法律により禁止されています。例として、国籍・信条・社会的身分を理由とした解雇(労働基準法3条)や公益通報をしたことを理由とする解雇(公益通報者保護法3条)、育児休業の申出を理由とする解雇(育児・介護休業法10条)などが挙げられます。

 第2に、就業規則による制限です。就業規則は、労働者の労働条件などを定める規則であり、その中には解雇事由を含む退職に関する事項を記載しなければなりません(労働基準法89条3号)。そして、就業規則に記載された解雇事由は、それ以外の事由による解雇を認めない限定列挙と判断されることが多いため、当該解雇事由が就業規則上の解雇事由のいずれかに該当しなければ原則として解雇はできないことになります。
 なお、就業規則よりも上位に位置づけられるものに使用者と労働組合の間の取り決め(「労働協約」)があり、それによる制限ということもあり得ますが、ほとんどの先生は労働協約を締結していないと思われますので、本稿では説明を割愛いたします。
 第3に、解雇権濫用法理による制限です。労働契約法第16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は」、権利の濫用として無効であると定めています。解雇が有効となるには、合理的な理由と、社会通念上の相当性の双方が必要であるとするのが通説的な見解です。そして、判例は、特に「社会通念上の相当性」を厳格に解し、解雇権の濫用を広く認めることにより労働者の権利を擁護する立場を取っており、単に適性不足や義務違反があるというだけでは、まず解雇は認められないと考えてよいでしょう。

■ おわりに
 以上のとおり、わが国においては、解雇は厳しく制限されています。普通解雇をした多くの事例が紛争化し、使用者側が敗訴して損害賠償請求を受けるなどの結果となっていますので、解雇を検討する際には慎重を期し、専門家に事前に相談するなどの対応を取るべきでしょう。

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