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懲戒解雇とは ~医師のための労務 退職シリーズ 第4回~

 お客様である医師の先生からもよくお問い合わせいただくことがありますが、従業員の退職の際に知っておくべき
知識として、解雇があります。解雇は、大きく普通解雇、整理解雇、懲戒解雇に分けられます。今回は懲戒解雇について解説します。


■1 懲戒解雇とは
 「懲戒解雇」は、懲戒処分としての解雇です。懲戒処分には、懲戒解雇の他に、けん責、減給、出勤停止などがありますが、それらのなかで最も重い処分が懲戒解雇です。一般的には、退職金の一部または全部が不支給となり、また、即時に解雇が行われます。
 なお、労働者の責めに帰すべき事由による解雇の場合には、解雇の予告または解雇予告手当の支給が不要であるとされていますが(労働基準法第20条1項但書)、この事由は重大または悪質なものに限るとして厳格に解されており、懲戒解雇であれば必ずこの要件を満たすとまでは言えません。
 また、解雇予告をせず、かつ解雇予告手当を不支給とする場合には、予め労働基準監督署長の認定を受けることが義務づけられていますので(労働基準法第20条3項、第19条2項)、注意が必要です。
 懲戒解雇は、解雇としての側面に加え、懲戒処分としての側面を有しているため、解雇権濫用法理(労働契約法第16条)および懲戒権濫用法理(同法第15条)が適用されます。
 以下では懲戒解雇の懲戒処分としての側面に着目して懲戒解雇を行うにあたって検討すべきものを解説します。


■2 懲戒処分を行うためには
 ①契約上の根拠
 懲戒処分を行う権限(「懲戒権」)の根拠については、使用者は経営権の一環として当然に懲戒権をもつという見解(「固有権説」)と、使用者は就業規則などの労働契約上の根拠に基づいてその限りで懲戒権をもつという見解(「契約説」)が対立しており、近時は契約説が有力ですが、判例は固有権説の立場であると言われています。
 契約説の立場では契約上の根拠が必要となりますので、就業規則に懲戒条項が存在しないなどの場合には懲戒処分が行えません。固有権説においては理論的にはこの限りではないですが、裁判実務上も、後述の罪刑法定主義類似の観点などから、就業規則の根拠がない懲戒については効力を否定されることが多く、いずれにせよ就業規則の定めが
重要であることに変わりはありません。

 ②懲戒権濫用法理
 懲戒処分が契約上の根拠に基づいて行われたとしても、それは権利濫用といえるようなものであってはなりません。
この点、労働契約法第15条は、「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効と」 しています。

 ③罪刑法定主義類似の諸原則
 
懲戒処分は職場における秩序違反行為に対する制裁罰との性質をもち刑事処罰と類似性をもつため、刑事処罰において守るべきルール(「罪刑法定主義」)類似の諸原則を満たすものでなければならないとされています。
 罪刑法定主義類似の諸原則としては、懲戒の種別・事由の明定、類推解釈の禁止、不遡及の原則、一事不再理の原則(二重処罰の禁止)などがあります。
 また、懲戒処分を行う際には適正な手続きを踏むことも必要です。ここで取り分け重要なのは、被処分者に弁明の機会を与えることです。被処分者に懲戒事由を告知して弁明の機会を与えることは、就業規則などにその旨の規定がない場合でも、原則として必要となります。弁明の機会を与えずに行われた懲戒処分は原則として無効となります。
 なお、厚生労働省労働基準監督課「モデル就業規則[令和5年7月版]」には、弁明の機会の付与が規定されていないため、当該規則を基礎として就業規則を作成している場合には注意が必要です。

■3 おわりに
 懲戒解雇は、解雇として有効か無効かの判断に加え、懲戒処分として有効か無効かの判断も必要となります。特に後者では罪刑法定主義類似の諸原則の検討が必要となり、懲戒事由、懲戒手続の双方において厳格な規制に服しますので、懲戒解雇を行う際は、例によって事前に弁護士に相談するなどの対応を取るべきでしょう

 

 

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